脂質異常症とは
血液中の悪玉コレステロール(LDLコレステロール)や中性脂肪が高い状態、あるいは善玉コレステロール(HDLコレステロール)が低い状態のことをさします。かつては高脂血症といわれていましたが、善玉コレステロールが低い状態については正しく病態を表してはいないとされ、2007年より脂質異常症といつ診断名に変更されました。
多くの場合、無症状ですが、動脈硬化の原因となり、脳梗塞や心筋梗塞などの命にかかわる発作や病気をおこすリスクが高くなります。 脂質異常症の原因は、遺伝的な要素、高脂肪食、運動不足などの生活習慣やストレスなどの関与が明らかにされています。
男性は40~50歳くらいから、女性は閉経を迎える頃から高くなることが多くみられます。また家族性高コレステロール血症は500人に1人程度と比較的高頻度で認められ、家族性高コレステロール血症の場合は心筋梗塞や狭心症のリスクが非常に高くなることから早期診断・早期治療が必要となります。
コレステロールとは?
コレステロールはヒトの体に存在する脂質の一つで、細胞や細胞膜の成分、副腎皮質ホルモンや男性・女性ホルモン、胆汁酸の材料となるため体内にはなくてはならないものです。約3割は食事中のコレステロール由来で、残りの7割は肝臓で脂質や糖質などから合成されます
。コレステロールには、主としてLDLコレステロール(悪玉コレステロール)とHDLコレステロール(善玉コレステロール)があります。LDLコレステロールは肝臓で作られたコレステロール全身に運ぶ働きをしています。血液中にLDLコレステロールが増えすぎると、動脈硬化を進行させる要因となるため「悪玉」と呼ばれています。
一方のHDLコレステロールは、使われずに余ったコレステロールを肝臓で処理するために戻す働きをしています。動脈硬化を抑える方向に作用するため「善玉」と呼ばれています。
中性脂肪とは?
中性脂肪もヒトの体に存在する脂質の一つで、英語名をトリグリセリド(TG)といいます。ヒトの体のエネルギーは主にブドウ糖が利用されますが、中性脂肪はブドウ糖の不足を補う形で利用されます。体内に取り込んだエネルギーが余った場合、肝臓で中性脂肪が合成され、脂肪として蓄えられます。
脂質異常症の診断
脂質異常症診断基準(空腹時採血)*
LDLコレステロール | 140mg/dL以上 | 高LDLコレステロール血症 |
---|---|---|
120~139mg/dL | 境界域高LDLコレステロール血症** | |
HDLコレステロール | 40mg/dL未満 | 低HDLコレステロール血症 |
トリグリセライド | 150mg/dL以上 | 高トリグリセライド血症 |
Non-HDL コレステロール |
170mg/dL以上 | 高non-HDLコレステロール血症 |
150~169mg/dL | 境界域高non-HDLコレステロール血症** |
*10時間以上の絶食を「空腹時」とする。ただし水やお茶などカロリーのない水分の摂取は可とする。
**スクリーニングで境界域高LDL-C血症、境界域高non-HDL-C血症を示した場合は、高リスク病態がないか検討し、治療の必要性を考慮する。
日本動脈硬化学会: 動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド2018年版, 2018
脂質異常症の治療
年齢、性別やその他のリスク因子(家族性高コレステロール血症、心筋梗塞・狭心症の既往、脳梗塞、糖尿病、腎臓病、メタボリックシンドローム、喫煙歴)などにより目標が設定されます。
脳梗塞や心筋梗塞などは遺伝要因と過食、身体活動不足などの因子が関連し発症します。予防のためには、生活習慣の改善がまず重要です。それに加えて、脂質異常症治療薬による治療をおこないます。
下記の5つの危険因子をカウントする
- 喫煙
- 高血圧
- 低HDLコレステロール血症
- 耐機能異常
- 早発性冠動脈疾患家族歴
(第1度近親者かつ発症時の年齢が男性55歳未満、女性65歳未満)
注:家族歴など不明の場合は0個としてカウントする。
性別 | 年齢 | 危険因子の個数 | 分類 |
---|---|---|---|
男性 | 40~59歳 | 0個 | 低リスク |
1個 | 中リスク | ||
2個以上 | 高リスク | ||
60~74歳 | 0個 | 中リスク | |
1個 | 高リスク | ||
2個以上 | 高リスク | ||
女性 | 40~59歳 | 0個 | 低リスク |
1個 | 低リスク | ||
2個以上 | 中リスク | ||
60~74歳 | 0個 | 中リスク | |
1個 | 中リスク | ||
2個以上 | 高リスク |
治療方針の 原則 |
管理区分 | 脂質管理目標値(mg/dL) | |||
---|---|---|---|---|---|
LDL-C | Non- HDL-C |
TG | HDL-C | ||
一次予防 まず生活習慣の改善を行った後薬物療法の適用を考慮する |
低リスク | <160 | <190 | <150 | ≧40 |
中リスク | <140 | <170 | |||
高リスク | <120 | <150 | |||
二次予防 生活習慣の是正とともに薬物治療を考慮する |
冠動脈疾患の既往 | <100 (<70)* |
<130 (<100)* |
*家族性高コレステロール血症、急性冠症候群の時に考慮する。糖尿病でも他の高リスク病態[非心原性脳梗塞、末梢動脈疾患(PAD)、慢性腎臓病(CKD)、メタボリックシンドローム、主要危険因子の重複、喫煙]を合併する時はこれに準ずる。
日本動脈硬化学会: 動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド2018年版, 2018
脂質異常症の治療はまずは日常生活の改善をおこないます。
- 禁煙し、受動喫煙を回避する
- 過食を抑え、標準体重を維持する
- 肉の脂身、乳製品、卵黄の摂取を抑え、魚類、大豆製品の摂取を増やす
- 野菜、果物、未精製穀類、海藻の摂取を増やす
- 食塩を多く含む食品の摂取を控える(6g/日未満)
- アルコールの過剰摂取を控える(25g/日以下)
- 有酸素運動を毎日30分以上行う
生活習慣の改善で脂質管理が不十分な場合には、薬物療法を検討します。 健康診断などで、コレステロール、中性脂肪が高めと言われたことがある方はお気軽にご相談ください。