潰瘍性大腸炎とは
びらん(ただれ)や潰瘍が大腸の粘膜にできてしまう疾患です。いまだに発症メカニズムが解明されておらず、指定難病に登録されています(指定難病97)。根治治療がない難病ですが、投薬や生活習慣などに気を付けることによって、症状を落ち着かせることはできます。
そのため発症前とほぼ変わらない状態で、日常生活を送ることもできます。若年層の発症が多く見られますが、子どもから高齢者まで、年齢に関係なく発症します。 潰瘍性大腸炎は指定難病のため、「難病医療費助成制度」を利用して治療を受けることができます。医療費の自己負担が軽減できるので、利用を推奨します。
原因
現在でも原因ははっきりと特定できていませんが、免疫機能が正常に機能していない(自己免疫反応の異常)や、遺伝、食事の習慣など、さまざまな要因が関係しているのではと考えられています。
症状
主な症状は腹痛や激しい下痢、血便(粘液と血液が混じった粘血便)などです。重症化すると急激な体重減少や貧血、発熱、頻脈などが起きてしまいます。潰瘍性大腸炎で発症する症状は、クローン病(指定難病96)やサルモネラ腸炎、感染症の細菌性赤痢と似ています。
潰瘍性大腸炎は早期治療を行うことが重要な疾患です。心当たりのある症状でお悩みでしたら、検査して診断名を特定できる消化器科へ速やかに受診してください。 潰瘍性大腸炎は、「症状が再燃する活動期」と「症状が落ち着く寛解期」を交互に繰り返す特徴があります。「治ったから」と油断して治療を勝手に中断してしまうと、活動期がまた起きやすくなってしまいます。 寛解期でも治療を継続していくと、活動期がおこるリスクを減らすことができます。そのためぜひ、寛解期の治療継続を心がけていきましょう。
潰瘍性大腸炎と症状が似ている疾患
クローン病
指定難病の一つで、腹痛・下痢などが起きるのと、再燃と寛解を繰り返しやすいところが潰瘍性大腸炎と似ている疾患です。潰瘍性大腸炎は大腸にびらんや潰瘍が発生しますが、クローン病の場合は消化管全域(口から肛門まで)に炎症や潰瘍が起きてしまいます。クローン病の治療法は投薬治療や外科治療だけではなく、食事療法・栄養療法などの治療も必須なので、疾患を見分ける必要があります。
細菌性赤痢
赤痢菌に感染して発症する疾患です。感染すると数日の潜伏期間を経て、下痢・腹痛・発熱などを発症します。海外旅行後に帰国してから発症する傾向があり、特にインドやインドネシア、タイなど、衛生環境が整っていない地域へ旅行するときは、現地の飲食物に気を付けましょう。感染した渡航者からうつって感染してしまうケース(二次感染)や、家族内で感染するケースもあります。
サルモネラ腸炎
指鶏の卵など、サルモネラ菌に汚染された食品を摂取することによって発症する疾患です。発症すると、吐き気・嘔吐や腹痛、下痢、発熱、下血・血便などの症状が起きてしまいます。鶏肉や豚肉などの肉類を摂取したことによる感染や、犬や猫などのペットを経由しての感染もあります。
検査・診断
問診で症状や心当たりをお聞きして、潰瘍性大腸炎かそれ以外の疾患かを見極めていきます。血液検査や腹部レントゲン検査、便培養、大腸カメラ検査などの必要が出てきましたら、速やかに行います。特に潰瘍性大腸炎の確定診断を行うにあたって、大腸カメラ検査の実施は必要不可欠です。
大腸カメラ検査を行うことによって、症状の有無を観察できますし、生検(組織の一部を採取して検査を行うこと)もできます。また、炎症や潰瘍の状態、症状が起きている範囲なども目視で確認できるので、適切な治療として効果的です。
診断基準
血便や腹痛など症状が現れているだけではなく、大腸カメラ検査や注腸X線検査、生検などの検査で潰瘍性大腸炎の症状が確認でき、クローン病や細菌性赤痢、サルモネラ腸炎などの疾患ではないと分かった場合、潰瘍性大腸炎だと診断します。
重症度分類
排便回数・顕血便(血便の程度)・発熱・頻脈・貧血・赤沈(赤血球沈降速度)という6項目を検査して、結果に応じて重症・中等症・軽症に分類していきます。 軽度・中等度・重症の基準値は明確に決まっています。
軽症の基準は「排便回数が4回以下」で、顕血便は「無いか少量」、発熱・頻脈・貧血・赤沈は「正常」と決められています。 重症は、排便が「6回以上」、顕血便は「大部分が血液」、発熱が「37.5℃以上」で頻脈が「90/分以上」があり、6項目中4項目に該当する状態です。そして中等症は、軽症と重症の間の中間値です。
また、重症の中でも特に症状が激しく、症状がかなり重い状態は「劇症」といいます。 難病医療費助成制度の対象者は重症度分類の中で「中等症以上の状態」だと診断された方ですが、軽度の方でも長期間の治療を行う必要がある場合は、「軽症高額該当」として医療費助成を受けられます。
対象者はおもに、医療費助成申請をした月~12ヶ月の期間で、1ヶ月あたりの医療費が33,330円を超えた月が3回以上あった方です。潰瘍性大腸炎の診断受けてから12ヶ月未満の場合は、難病指定医が診断した月~申請月までの期間で、1ヶ月あたりの医療費が33,330円を超える月が3回以上あった方を対象にしています。
潰瘍性大腸炎の治療法
症状が落ち着いている状態をできるだけ長く続けるためには、寛解期が来ても治療を継続していくことが重要です。炎症解消において効果の高い治療法はありますが、「症状が治ったからいいや」と治療をやめてしまうと、症状が悪化して再燃してしまい、活動期が早く来てしまいます。
治療では5-アミノサリチル酸製剤などを処方していきますが、炎症がひどいときはステロイド剤を用いて、短期で症状を緩和させていきます。このような薬だけではなく、場合によっては免疫調節薬も処方します。とくに直腸やS字結腸の炎症がひどい場合は、坐剤や注腸製剤を処方します。
難病医療費助成制度について
難病に指定されている潰瘍性大腸炎は、完治できる治療法がいまだ分かっていないため、難病医療費助成制度を利用して医療費を減らすことができます。国が指定した診断基準と重症度分類によって、助成対象かそうでないかが決められます。助成対象者の方は、治療費用の負担の割合が下がる(または上限ができる)ので、自己負担額を減らせます。
対象者に該当するかは重症度合いによりますが、軽度でも長期間の治療が必要な方は、「軽症高額該当」の医療費助成が利用可能です。医療費助成制度で分からないことがありましたら、お気軽にご相談ください。